医療機関には、発展過程があります。
1.開業までの1〜2年間
長期的な計画の場合もありますが、開業を決め、実際の開業までは、最低でも1年間は
かかります。
その間に、事業計画を立てていきます。事業計画には、開業資金の準備、物件選定、
内外装の計画、人員確保のための計画などが盛り込まれていきます。
まずは、どのような医療機関で開業するのかという事業コンセプトを決める必要が
あります。
診療科目を決めることは当たり前ですが、同時にどの分野まで事業を広げるかを検討
する必要があります。
内科などの開業の場合は特に在宅診療への取り組みなどです。
在宅診療をやりながら、外来診療もやっていくような診療所も多く存在していますが、
医師の確保など、在宅診療を円滑化するための準備も必要です。
通常の外来専門のクリニックでは必要のない事業活動も含まれてきます。
他にも、医院の医療理念、採用するスタッフのイメージ・給与・待遇、医院の内装や
レイアウトなど、細かな点まで決めていく必要があります。
このように事前に決めることは多岐に渡ります。
細かな内容も含め、決めること、そして、実行していくことが多く発生してくるのです。
この開業準備機関で、次第に経営者としての心構えを作り上げていきます。
その第一段階が、「決める」ことです。
何を、どこで、どのように、いつまでにやっていくのか?
これを決めていくことが、事業計画の基本です。
しかし、どうしても、成功することを理論的に考えていくと、「自分で決める」
という段階を忘れがちになります。
銀行の融資が楽に降りるとしても、安易に言われるがままになるのではなく、
自分で決めているという意識を持つことが、開業準備機関では必要です。
決断は自分自身でやらなくてはなりません。その点を踏まえて、準備に当たって
いただきたいと思います。
2.創業(開業)からの3年間
創業から3年間の間が大変重要です。
開業から間もない時期は、患者数をいかに確保していくかを徹底的に考える時期です。
この時期は、開業からおおよそ2~3年間です。
この時期は徹底して患者数を確保していく必要があります。
3年間は患者数が伸び続ける医院が一般的です。この時期に患者数で悩むということは、
完全に開業地に誤りがあります。特に開業後1年間は患者数が急激に伸びていきます。
その時期に伸びないということは、何かしらの過ちが存在しているのです。
周辺人口が少ない、競合の影響を受けている、そもそも診療スタイルが誤っているなど、
問題は多々あります。この状況から脱するためには、一般的なやり方では変化が生まれ
ません。
根本的な問題を解決するためには、経営者たる院長の考えを変える必要があります。
普通に患者さんを待つようなスタイルから、患者さんをいかに集めるのかを考える
必要があります。最初に十分な診療圏調査をしていない、提携医療機関を作っていない、
成功を手伝うような人を確保できていないなど、初期段階の準備が出来ていなかったの
ですから、今から相応の努力をしなくてはなりません。
一般的な事業を行う場合、広告宣伝など徹底して行います。
しかし、伸びていない医院の場合、経営者たる院長の覚悟がなく、開業すれば患者さんは
集まるというような全くの素人のような開業パターンが多いのです。
しかし、経営状況の悪い段階になると、広告費用をかけれないという状況に入ります。
その中でいかに状況を好転させるのかということを考える必要があります。
この点を理解し、いかに患者数を確保するために努力するのかということが重要です。
開業の際に様々な企業がサポートに入ります。そのため、自分では判断するだけで
何もしないという方も多いのが実情です。
まずは、今できることを全力を尽くす必要があります。
3.3年後からの発展時期
開業後一定時期を過ぎ、患者数が最低収支を超える程度集まってくると、増患だけを
考える時期から少しずつ変化してきます。また、この段階で医院としての差が生まれます。
安定患者数を確保できていない場合は、患者数を確保するための努力を行う必要が
あります。しかし、実は増患対策は継続し続けていかなくてはなりません。
カルテ獲得枚数が多くなってきても、常に新規患者数は確保しなくてはなりません。
再来患者数が増え、毎日の診療で充実し始めると患者数獲得施策をとらなくなります。
しかし、診療圏は常に変化しています。住宅地が広がってきているのか、人口変動は
あるのか、病院等の施設の移設、提携医療機関との関係性など変化が生まれます。
この変化に対応できているかどうか、そして潜在患者数を確保できているかをチェック
しなくてはなりません。
この段階でチェックするのは、第一に周囲の潜在患者数のシェアがどれくらいあるのか
ということです。自医院の一次診療圏の来院患者数のシェアが、15%程度確保できて
いるかです。
8%程度のシェアでは、周囲からの評判はまだ低いのです。シェアが15%以上、
できれば20%を超えるシェアを確保していない限り、増患対策を続ける必要があります。
一日当たりの患者数でもある程度把握できますが、これは診療科目で違うため、
診療科目ごとに確認する必要があります。弊社では、コンサルティングの前にシェアを
把握していきます。シェア毎にやるべきことが変わってきます。
まだシェアが低い段階では、様々な経路での広告活動を行います。
既に競合医院の存在しないエリアはほとんどありません。競合医院に勝る何かを作り出し、
患者さんに認知してもらう必要があるのです。
次にチェックするのは、患者の来院経路です。安定してきていると判断できるのは、
口コミ・紹介患者数が全体の5割を超えているのかどうかです。口コミ・紹介患者が少ない
段階では、安定した経営は難しい状態になります。
初期段階では、インターネットからの来院が増加しがちです。他にもチラシや、雑誌広告
などを経由した来院が多くなりますが、3年間の間に口コミを増やす必要があります。
口コミが増加していない段階では、常に広告宣伝費をかける必要があり、効率的な
経営は難しくなります。
口コミが増加している状況を作り出した上で、次の経営革新を行う必要があります。
口コミが増加し、シェアを確保している医院では、待ち時間対策、診療効率化が急務に
なります。当然、3年を迎える前にこの段階に達している医院も数多くあります。
待ち時間対策は常に頭を悩ませるものです。患者さんの来院には、波があり、どうしても
この波の影響を受けます。
他の部署で手伝ってもらい、マルチタスクで乗り越えるという方法もありますが、
混雑している時間帯は、他の部署でも混雑しています。
待ち時間の発生は、診察待ちであるケースが一番多いのですが、来院患者に波がある場合
は、受付で混雑し、その後、診察待ちで混雑し、最終的に会計待ちで混雑します。
この波が発生している状態では、院内全体が混雑している状況に陥ります。
待ち時間対策として何に重点を置くかです。
それは最初に会計待ちです。
診察までは患者さんは待ってくれます。しかし、診察後待たされることがストレスに感じる
ケースが多くあります。
診察後は早く帰りたいという気持ちが強くなります。
しかし、受付では、来院患者対応と、会計処理が存在しています。最初と最後の業務に
なり、会計処理はどうしても遅くなってしまうのです。
レセプトチェックが入ると更に会計処理は遅くなります。
会計処理をいかにスムーズにするのかが、待ち時間クレーム対策の最優先事項です。
電子カルテの場合、紙カルテシステムと比較して、会計処理は早くなると考えがちですが、
実はレセプトチェックを診察室で実施するために、診察待ちが増加していきます。
これは相反するものではありますが、いかに診察室での処理をスムーズにするのかを
電子カルテの場合は重視する必要があります。これは昨今重視されているシュライバー、
クラークと言った役職の役割が重視されていることに繋がります。
電子カルテシステムは、紙カルテシステムよりも人員を削減できるという方もおられま
すが、一定の患者数を超えてくると、紙カルテシステムよりも電子カルテシステムの方が
人員が必要になります。
この点は理解していく必要があります。電子カルテシステムは人員削減策ではないと
ご理解ください。
開業後、一定期間を過ごすと医業収入が安定し始めます。
保険診療中心で採算の取れる医科診療所の場合、長期間の医院運営を行う中で患者数は安定します。
その上で考えるべきは、収益性向上です。
収益を上げるということは、
(1)収益をアップさせる
(2)経費を削減させる
(3)財務テクニックを活用する
という大きくは3つの方向性があります。
(1)に関しては、様々な手法があります。これは前章でも記載いたしましたので、こちらをご参考にして
いただくたいと思いますが、(2)の問題です。
経費バランスを考える場合、通常は一番意識するのは人件費になりがちです。
医療機関の経費構成比で一番高くなるのは人件費です。固定費にくくられるくらいですので、
毎月支払いをしなくてはならない経費項目となります。そのため、人件費をいかに下げるかという
ことを意識しがちです。
しかし、相手はヒトです。人件費構成が高くとも、それ以上の仕事をしていただけるのであれば、
実は経費効率は高いと言えます。この点は、しっかりとした経費効率計算をしていく必要があります。
その中で、事務職(受付・助手)などの業務効果をどう見るのかについては良く質問されます。
効果を測定する指数をあらかじめ決める必要がありますので、業務範囲における目標設定を明確化
する必要があります。
さて、最初に確認すべき部分は、やはり仕入です。仕入に関しては、医療機器の消耗品などの発注から
再確認する必要があります。必要のない仕入がないのかを確認していくこと、更に他の
卸会社からの見積もり依頼などは、常に実施していく必要があります。
更に経費削減手法は多々あります。テクニカルな手法も含めると、かなりの種類があり
ます。弊社が対応できる部分として
・賃料改定
・水道光熱費削減
・仕入額削減 など
様々な手法があります。これは、入居している建物の所有の問題や、現在取引している
企業との関係性など様々な条件により変わってきます。
しかし、実際に経費削減すると、月間10%以上の変化が期待できます。
必ず取り組むべき内容です。
(3)財務テクニック
これは、現在の財務状況によってかなり変わってきます。
例えば、債務の軽減や、収益コントロールなど、様々な手法があります。
財務テクニックを使うことにより、相続税問題も解決することができます。
事業承継に関しては、しっかりとした準備を長期間に渡って実施する必要があります。
何も対策をしないと、多大な相続税が必要であったり、患者様が多数診察してほしいのに廃業に追い込ま
れるということになります。
第一に本当に事業継承が必要なのかを考えなくてはなりません。今まで頑張って診察を続けていたから
残したいという希望を持つ方が多いのですが、医療機関の資産価値はそれほどない場合が多いのです。
土地、建物などの不動産は価値が変わりません。しかし、医療機器に関しては数年すると新しい機種も
出始め、価値がなくなってしまいます。財務諸表上の価値があったとしても、市場価値が違います。
本当の価値は、購入時の価値ではなくなってしまします。
また、患者数が減少しているような医療機関を継承したいという方も、あまりおりません。周辺に競合
医院が出始めたり、道路の開通により来院数が減少するということが多々ございます。このような
状況になってしまうと、継承先も探せなくなってしまいます。
このような場合は、積み立てていた退職金などを使い、廃業という形が望まれます。
しかし、これでは今までの苦労が向かわれません。
事業継承でも十分に価値のある状態を維持しつつ、継承先を探していく必要があります。診療所などでは
開業するドクターに数千万円の債務余地が存在しています。そのため、簡単に開業できるということを
考えると、開業よりも継承がいいと感じさせる状態を作る必要があります。
これは長期的な対策です。また、突然の体調不良なども想定しながら、早めに継承計画を立てる必要
があるのです。しっかりとした対策が必要なのです。
弊社にも多数の事業継承案件があります。しかし、どちらかというと緊急性の高い案件が多く、結果的に
かなり妥協をしていただく形での継承となっています。今後、どのように対策を練っていくのかを弊社と
一緒に考えさせていただければ幸いです。